![]() そうした真っ最中に、新潟県の妙高でクリニックを開いておられた知人が病に倒れ、毎週2回お手伝いに通うことになったのです。そこはまさしく、地域でたった一人の医師にあらゆる病の悩みを抱えた方が相談に訪れる地域医療の最前線でした。2年ほど通ったでしょうか、真冬には自分の背丈よりはるかに高く雪が積もった中、何十分も歩いて往診にも出かけるようなこともありました。リアルな地域医療の実態は想像以上にシビアなもので大学病院にいてはなかなか実感出来ません。そうした経験もあって私自身も「地域のかかりつけ医」としてこの高輪で腰を据えて患者さんと向き合う決心をした次第です。 |
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![]() ここで考えなくてはならないのは、人間は誰しも歳を重ねればカラダの不具合は避けて通れないということです。だからこそ症状が悪化する前に我々が何らかの形で関わりを持ち、できるだけハッピーな生活を送っていただけるよう導くことです。たとえば腰が痛い、膝が痛いというお年寄りはどうしても家に引きこもりがちになる傾向にあります。このように既に症状が顕在化している方に関しては、まず痛みや不安を取り除くことが第一です。その一方では、患者さんが社会との関わりを持てるようアドバスする、あるいはその機会の提供を行うことが極めて重要であると考えています。 |
![]() そうした考えを1つのカタチにした試みが「高輪講談会」の開催です。第1回目の開催は昨年の12月13日に旧知の講談師である神田鯉風さんをお招きして「赤穂義士銘々伝~安兵衛道場破り」と「赤穂義士本伝~義士勢揃い」の2演目を語ってもらいました。50人ほどの患者さんがいらっしゃったんじゃないでしょうか。もちろん無料です。大好評でまたやってもらいたいという要望が多かったのでこれからも継続してやっていこうと思っています。私なりに都合良く解釈させていただけば、このクリニックが出来たことで、高輪に暮らすお年寄りに新しい楽しみが1つ増えたのかなとも思っています。 |
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![]() 大学病院にいた頃は研究をして論文を書いて、若手の育成を行うことが仕事だと思っておりましたが、高輪にクリニックを開業させていただいて、地域の方々にお役に立つことを深く考えるようになりました。また、自分の社会的な役割は何かと考えた時、医療の視点で高輪の街を見守りつつ、微力ながらも多くの方が笑顔になれるお手伝いをしていくことに尽きるのではないかと考えています。ただそうしたことは私一人がどれだけ頑張っても実現できません。幸いここのスタッフたちは誰もが優しい気持ちを持った優れた人たちばかりです。これからも力を合わせて高輪の地域医療に務めたいと思っています。 |