HIGH STYLE TAKANAWA ハイスタイル高輪

未来を俯瞰し、いまを語る。緑多き都心の楽園・高輪
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マーケティング・プランナー清野裕司が考察する高輪の今と未来予想図

山手線新駅誕生とともに高付加価値エリアへ
住まいの価値と価格を左右する移動便宜性
居住地をマーケティングする上で重視すべき要素に「移動便宜性」があります。これは前回、最寄駅から都心までの移動時間を例にとって説明しました。今回はさらに、最寄駅から住まいまでの時間を、より現実的な数字を挙げて比較してみたいと思います。
仮に、首都圏で、同じ市内、同じ30坪の新築マンションであった場合、最寄駅から徒歩3分以内の物件の坪単価が約200万円であるのに対して、バス便で11分以上の時間を要する物件になると、坪単価は160万円を下回ります。つまり、結構な時間バスに揺られることを我慢すれば4,800万円ほどで購入できるマンションが、駅近の物件になると途端に6,000万円もの高額物件となってしまうのです。もちろんこれは、2016年度に公示された東京23区内のある地域を例にとったモデルパターンに過ぎませんが、「駅から近い」、いわゆる移動便宜性に優れていることは、則、住まいの価値や価格にも大きく影響してくるのです。
駅周辺を見れば、その街の個性が分かる
ただし、ここで1つ考えなくてならないのが駅周辺の「猥雑性」です。もともと「駅」という言葉は街道沿いにある宿場(宿駅)を指すもので、東海道や中山道のような、江戸時代に整備された街道において、目的地に到着するまでに、宿泊施設やさまざまな商店が軒を並べ、旅人がお金を落とし、心とカラダを再生させることを目的とした市場(マーケット)でした。
それを現代に置き換えるなら、駅周辺がまさしく「宿場」と言って良いでしょう。一日の仕事を終えて最寄駅で満員電車を降りれば、そこには、必要不必要を問わず、さまざまな商品に満ちた市場がある。食料品があり、衣料品があり、日用品もある。本を一冊買って帰ろうか、それとも映画の1本でも観て帰ろうか、と思案するうち、結局何も手にせず帰途についている。それでも、どこかしら心が軽くなり、ほんの少しだけ再生された自分を感じることができる。それが、マーケットの持っている猥雑性の魅力です。つまり、駅周辺を見れば、その街の活性度が計り知れ、民度すらも伺い知ることができる。住まい探しをする人は、まず駅周辺を観察するべきです。しかし残念ながら、今の高輪には、その尺度がありません。

中央線沿線に誕生した駅ビルの効果
かつては「駅前銀座」と言われる商店街が日本中に存在し、まさしくその地域ならではの猥雑性が集約されたマーケットとなっていましたが、近年それは、駅ビルにとって代わっています。
ここで1つ、比較的新しい例を紹介すると、武蔵野と東京を結ぶ中央線。その中央線の魅力をさらに向上させる駅ビルプロジェクトが『nonowa(ののわ)』という名前で始まっています。武蔵野の豊かな自然や、個性豊かな文化と駅・まちとをつなぐことをコンセプトとして、現在、国立、西国分寺、武蔵小金井、東小金井、武蔵境など、中央線沿線の5つの駅で展開しています。
これまで都心に出向かなければ手に入らなかった「ちょっとした」品々を豊富に揃え、なおかつ、多摩地域で生産された「地元の商品」もディスプレイするなどして、東京都下の小さな街に活力が生まれました。また、駅ビルに入るテナントのグレードやこだわりから、このエリアで暮らす人々の生活水準を伺い知ることができますし、多摩地区ならではの独自性をも表現させています。このことによって、これら5つの駅周辺の坪単価は他駅周辺と比べて右肩上がり。現実的な数字においても付加価値が表れています。

猥雑性がもたらす街の明暗
駅周辺が再開発される、あるいは駅ビルが生まれるということは、人びとが、新たに集う場所が出来るということになります。簡単に言えば、それが猥雑性の正体です。そして、人が集うようになれば必然的に街も活性化します。ただし、街の猥雑化には良い面と悪い面を表裏一体で持ち合わせていることも忘れてはなりません。
良い面を挙げるならば、商業や産業が活性化して街が潤います。当然、街自体のステイタスも上がりますし、その猥雑性に魅力を感じて「ここに住みたい」と思う人も出てきます。一方、悪い側面では、そうした新住民の参入(或いは他の街から訪れる人々)によって、これまで善しとされてきた街の歴史や文化のようなものが、少なからず影響を受け崩れてしまう恐れがあります。
仮にもし、文教地区である国立駅前が、新宿や渋谷の駅前のように変貌したら、文教地区としての街の魅力はなくなってしまいます。ただし、幸いにして国立市には、そうした変化を許さない風土が根付いており、それを望まない昔ながら人々が多く暮らしています。そこで現在、その役割(猥雑化)を担っているのが、お隣の立川駅周辺です。ここ数年立川市は、目覚ましい変化を遂げ、経済効果もうなぎ登りです。それに便乗するように、立川駅周辺の猥雑性を「ちょうどいい距離感」で享受しているのが国立市民です。

取り巻く環境が激変。しかし高輪は変わらない
この現象は、そのまま高輪に置き換えられます。これまでの高輪は、前回の記事にも記した通り、あまり面白みのない街でした。駅前(泉岳寺駅)周辺はさることながら、どこを歩いても猥雑性のかけらがなく、良くも悪くも、泉岳寺に眠る赤穂浪士の面影と共に時間が止まっているように落ち着き払っているのです。
ところが、2020年、高輪の最寄駅ともいえる泉岳寺駅から、第一京浜を挟んだ目の前の港南エリアが、大きな猥雑性を孕んだ新都市へと生まれ変わります。JR山手線に新駅が30年ぶりに誕生し、その周辺(品川~田町間の操車場跡)は、東京最後で最大となる再開発が行われます。
その全貌はまだ明らかにされていませんが、新しい駅舎のデザイン設計を行うのは、世界的な建築家・隈研吾氏。時を同じくして開催される東京オリンピックのメインスタジアム「新国立競技場」の設計者ということもあり大きな話題を呼んでいます。
新駅及び周辺エリアの再開発に伴って、鉄道インフラも見直され、羽田空港、成田空港へのアクセスも格段に向上すると言います。したがってこのエリアは、かつて関東の表玄関として栄えた品川宿から、世界に開かれたゲートウェイへと変貌することが約束されているのです。
そして肝心なことは、大いなる猥雑性を持った再開発エリア(新駅を含む)と高輪の関係は、まさしく先に述べた、国立市と立川市の関係と極めて似ていることです。高輪の街も国立市と同じように、変えようのない独自の文化と、それを支持する人々によって形成されています。したがって、周辺がいかに猥雑性を持とうとも、決して変わらない、というより、変りようのない風土が根付いているのです。
つまり、国立市が街の活性化を左右する猥雑性を立川市に任せて都合よく享受しているように、高輪もまた、目と鼻の先の大規模再開発エリアにある種の猥雑性は任せ、これまで通りの落ち着きのある街並みと生活を確保できる。今後の高輪は、都内でも例を見ない高付加価値エリアへと変貌を遂げていくはずです。
文:清野 裕司(せいの ゆうじ)
1970年、慶應義塾大学商学部 卒業 マーケティング専攻。㈱キョーリン入社(マーケティング室)。
1973年、三井物産㈱食品部食糧統括室入社(外食産業のマーケティングを担当)。
1976年、十和㈱[現㈱アスティ]入社(マーケティング部・販売促進部)。
1981年、株式会社 マップス創設。
●マーケティング戦略プランニング:2,500種類のプロジェクト実績
●ワークショップ:長期経営戦略/新製品開発/営業体制設計/社員活性化
●ブランド開発コンサルティング
●地域産業創出/商店街活性化
業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして活動。マーケティング関連の著書多数。
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